ネコショカ

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『刀伊の入寇 平安時代、最大の対外危機』
女真族の襲来と軍事貴族たちの台頭

青春小説

『海がきこえるⅡ〜アイがあるから〜』氷室冴子 1990年代の恋愛シーンがよみがえる青春小説の佳品

拓と里伽子にもう一度会える 1995年刊行作品。1993年に刊行された『海がきこえる』の続編である。前作の『海がきこえる』は徳間書店のアニメ情報誌「アニメージュ」の連載作品であったが、本作は書下ろし作品として上梓されている。 前作に引き続き、表紙、…

『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』斜線堂有紀 愛する人の死が三億の価値を持つとしたら?

斜線堂有紀の第五作品 2019年刊行作品。『私が大好きな小説家を殺すまで』に続く、斜線堂有紀(しゃせんどうゆうき)の第五作。 個人的に『私が大好きな小説家を殺すまで』から始まる、『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』、『恋に至る病』の三作を、…

『サマー/タイム/トラベラー』新城カズマ 夏に読みたい青春エスエフ小説

夏に読みたい時間モノ 2005年刊行作品。第37回星雲賞日本長編の部の受賞作である。作者の新城(しんじょう)カズマは1991年から富士見ファンタジア文庫で上梓された『蓬莱学園』シリーズがデビュー作(懐かしい)。 本作は、タイトルの通り「夏」に読んでお…

『処女のまま死ぬやつなんていない、みんな世の中にやられちまうからな』葵遼太 名作だからみんな読んで!

葵遼太のオリジナル第一作! 2020年刊行作品。作者の葵遼太(あおいりょうた)は1986年生まれ。 デビュー作は、太宰治の『人間失格』をベースにしたSFアニメ映画『HUMAN LOST』のノベライズ版である(原案は冲方丁だ)。 HUMAN LOST 人間失格 ノベライズ(新…

『リカーシブル』米澤穂信 崩壊していく家族と残された絆

米澤穂信、二年ぶりの長編作品(当時) 2013年刊行作品。『小説新潮』に2011年12月号から2012年8月号に連載されていた作品を単行本化したもの。 「週刊文春ミステリーベスト10」2013年で第18位、「このミステリーがすごい!」2014年および「本格ミステリ・ベ…

『向日葵を手折る』彩坂美月 少女の四年間の成長物語

少女たちの四年間を綴った物語 2020年刊行作品。タイトルの読みは「ひまわりをたおる」。彩坂美月(あやかさかみつき)としては九作目の作品となる。 実業之日本社の文芸誌「紡」の2013年autumn号、2013年winter号、2014年spring号、2014年summer号に連載さ…

『少女七竃と七人の可愛そうな大人』桜庭一樹 大人になってから読むと身につまされる作品

一般文芸の世界で輝き始めた頃の桜庭一樹作品 桜庭一樹(さくらばかずき)は1971年生まれの女性作家。1990年代に山田桜丸(やまださくらまる)名義で、ライター、ノベライズ作家、ゲームシナリオ作家として活躍。1999年に『AD2015隔離都市 ロンリネス・ガー…

『リロ・グラ・シスタ』詠坂雄二 KAPPA-ONE登龍門の最終受賞作

詠坂雄二のデビュー作 2007年刊行作品。光文社版のメフィスト賞とも言える、公募新人賞KAPPA-ONE登龍門(かっぱわんとうりゅうもん)受賞作である。KAPPA-ONE登龍門は2002年にスタートし、石持浅海『アイルランドの薔薇』、東川篤哉『密室の鍵貸します』らを…

『つきのふね』森絵都 空から救いの船は降りてこない

マイファースト森絵都作品 1998年刊行作品。野間児童文芸書受賞作品。わたし的には本作が初森絵都(もりえと)であった。たくさん作品が出ているので、どれから読むべきか迷ったけど、一番ページ数が少なそうなものからチャレンジしてみた次第。 つきのふね …

『よるのばけもの』住野よる 「矢野さつきが示した三人」は誰なのか?

住野よるの三作目 2016年刊行作品。『君の膵臓をたべたい』『また、同じ夢を見ていた』に続く、住野よるの第三作である。 よるのばけもの 作者:住野 よる 双葉社 Amazon 双葉文庫版は2019年に発売されている。単行本版と比べて、表紙の雰囲気が全然変わった…

『栞と嘘の季節』米澤穂信 堀川と松倉の図書委員コンビが帰ってきたよ!

図書委員シリーズの二作目 2022年刊行作品。タイトルの『栞と嘘の季節』の読みは「しおりとうそのきせつ」。作者の米澤穂信(よねざわほのぶ)としては、『黒牢城』で第166回直木三十五賞を受賞した後の第一作でもある。 「図書委員」シリーズは、東京郊外の…

『魔女の子供はやってこない』矢部嵩 暗黒系ガールミーツガールの傑作に戦慄せよ

暗黒魔法少女降臨! 2013年刊行作品。作者の矢部嵩(やべたかし)は1986年生まれのホラー作家。2006年の『紗央里ちゃんの家』にて、第13回の日本ホラー小説大賞長編賞を受賞し、作家としてのデビューを果たしている。本作は、2009年の『保健室登校』に続く、…

『金環日蝕』阿部暁子 犯罪はわたしたちの身近なところに

阿部暁子初の単行本、社会派ミステリ 2022年刊行作品。作者の阿部暁子(あべあきこ)は1985年生まれの小説家。集英社が主宰していた公募文学賞「ロマン大賞」で、『いつまでも』(書籍刊行時のタイトルは『屋上ボーイズ』)が大賞を受賞し、2008年に作家デビ…

『君のクイズ』小川哲 奇跡の「ゼロ文字押し」は可能なのか?

2023年、本屋大賞ノミネート作品 2022年刊行作品。作者の小川哲(おがわさとし)は1986年生まれの小説家。2015年、第3回ハヤカワSFコンテストの大賞を受賞した『ユートロニカのこちら側』がデビュー作である。 既刊は以下の通り。 ユートロニカのこちら側(2…

『嘘つきなふたり』武田綾乃 “正解を選ぶだけの人生”からの逃避行

友情と嘘の物語 2022年刊行作品。作者の武田綾乃(たけだあやの)は1992年生まれの小説家。代表作はいうまでもなく2013年の『響け! ユーフォニアム』だろう。武田綾乃は同シリーズだけで10作以上の著作があるが、非ユーフォニアム系のノンシリーズも、手堅…

『ブラザー・サン シスター・ムーン』恩田陸 本と音楽と映画があれば幸せだった時代の物語

恩田陸の自伝的要素を含む作品 最初の単行本版は2009年に刊行。英題は『Brother Sun, Sister Moon』。 河出文庫版は2012年に登場。文庫化に際して、河出書房新社の文芸誌『文藝』に掲載されていた前日譚的な作品「糾える縄のごとく」を追加収録。加えて、巻…

『Y田A子に世界は難しい』大澤めぐみ AIと人間の境界線はどこにあるのか?

大澤めぐみの一般レーベル第二作 2021年刊行作品。大澤めぐみの商業出版作品、第六作目。一般レーベル(光文社文庫)からの作品としては、『彼女は死んでも治らない』に続く第二作となる。ちなみに、タイトルの『Y田A子に世界は難しい』の読みは「わいだえい…

『タイム・リープ あしたはきのう』高畑京一郎 平成の名作が新装版で再文庫化!

平成の名作が復刊 作者の高畑京一郎(たかはたきょういちろう)は1967年生まれのライトノベル作家。第1回電撃ゲーム小説大賞の金賞を受賞した、1994年の『クリス・クロス 混沌の魔王』がデビュー作。電撃ゲーム小説大賞系の作品でありながら、いきなり文庫で…

『早朝始発の殺風景』青崎有吾 高校生たちの気まずい密室

青春は気まずさでできた密室 2019年刊行作品。集英社の小説誌「小説すばる」に2016年~2018年にかけて掲載されていた作品をまとめたもの。「エピローグ」部分は単行本刊行時の書き下ろしとなっている。第73回日本推理作家協会賞の、長編および連作短編集部門…

『腹を割ったら血が出るだけさ』住野よる 本当の自分はこうじゃない!でもすべてをさらけ出すのは怖い

住野よるの九作目 2022年刊行作品。書下ろし。作者の住野(すみの)よるは2015年に『君の膵臓をたべたい』にデビュー。以来、毎年ほぼ1冊新刊を上梓しており、本作が九作目になる。 表紙イラストは房野聖(ぼうのさとし)が担当している。 住野よるの既刊は…

『恋する女たち』氷室冴子 原作小説版+映画版・マンガ版も解説!

氷室冴子『恋する女たち』のネタバレ感想、あらすじ、カバーデザインの違い、物語の舞台となった岩見沢についてのご当地ネタを収録。斉藤由貴主演、1986年の映画版や、1987年のマンガ版との違いについても解説しています。

『ラットマン』道尾秀介 最後まで気が抜けないミステリ作品

道尾秀介、初期の代表作 2008年刊行作品。光文社のミステリ専門誌『ジャーロ』の2007年夏号、秋号に掲載されていたものを単行本化したもの。作者の道尾秀介(みちおしゅうすけ)は1975年生まれの小説家。2005年の『背の眼』デビュー作で、本作が8作目になる…

『図書室の海』恩田陸デビュー10年目の短編集

初期代表作の外伝を含む、恩田陸の魅力が詰まった作品集 2002年刊行作品。各種アンソロジーやらネット媒体、雑誌等に掲載されてきた8編に加え、2編の書き下ろしを加えた短編集。この年、恩田陸はデビュー10周年だった。収録されている作品数が10編なのはこれ…

『僕が君の名前を呼ぶから』乙野四方字 並行世界で生きる「もうひとりの栞」の物語

『僕君』『君僕』のスピンオフ長編が登場! 2022年刊行作品。乙野四方字(おとのよもじ)の最新作。2016年刊行の『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』と世界観を同じくする、スピンオフ作品だ。 『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひ…

『きょうの日はさようなら』一穂ミチ 90年代からやってきた「いとこ」と過ごす特別な夏

一穂ミチ初の非BL作品 一穂(いちほ)ミチは、もともと二次創作の世界で活躍していた人物で、その力量を買われて、新書館のBL雑誌「小説ディアプラス」の2007年ナツ号に『雪よ林檎の香のごとく』を発表し作家デビューを果たす。 以後、BL小説の書き手として5…

『夏へのトンネル、さよならの出口』八目迷 時間を代償に、欲しいものが手に入るなら?

八目迷のデビュー作 2019年刊行作品。作者の八目迷(はちもくめい)は1994年生まれのライトノベル作家。「僕がウラシマトンネルを抜ける時」が第13回の小学館ライトノベル大賞にて「ガガガ賞」と「審査員特別賞」を受賞。同作は『夏へのトンネル、さよならの…

『海がきこえる』氷室冴子 1990年代の高知、東京を舞台とした青春小説

氷室冴子、最後期の作品 徳間書店のアニメーション情報誌『アニメージュ』の1990年2月号から、1992年1月号にかけて連載されていた作品を大幅改稿(後述)したうえで単行本化した作品。 単行本版は1993年に刊行されている。大長編シリーズであった『銀の海 金…

夏を舞台とした傑作小説15選、青春小説からミステリ、エスエフまで

夏を舞台とした傑作小説15選 夏になると、各出版社の夏のフェアが開催されて、書店の棚がにぎやかになりますね。 ということで、このブログでも夏のフェアをやりたい!ということで、当ブログでご紹介してきた800冊以上の作品の中から、「夏を舞台」とした作…

『ミナミノミナミノ』秋山瑞人 謎の島での真夏のボーイミーツガール

「イリヤっぽい話」として書かれた作品 2005年刊行作品。作品単位で考えると、『E.G.コンバット』『鉄コミュニケイション』『猫の地球儀』『イリヤの空 UFOの夏』に続く、秋山瑞人(あきやまみずひと)の五作目の作品になる。 また夏のボーイミーツガールも…

『この恋が壊れるまで夏が終わらない』杉井光 繰り返される夏休み最後の日

杉井光が描く、忘れられない夏の物語 2022年刊行作品。書き下ろし。作者の杉井光(すぎいひかる)は1978年生まれの小説家。第12回の電撃小説大賞で銀賞を取った2006年の『火目の巫女(ひめのみこ)』がデビュー作。多作で知られる人物で、これまでに三十作近…